浜坂より 夜の帰り道。

浜坂から帰りの運転大丈夫かなー、と車を走らせていると海岸から見た海が、イカ釣り船の明かりでほんのり明るくなっていた。

海岸から少し離れてみると、暗い谷あいを照らす満月に気付く。

これはもう、山陰海岸の入り組んだ旧道を帰るしか無い。
疲れを紛らすのにももってこい。

posted at 23:05:34


というわけで、居組から網代までを1時間かけて走る超鈍足ドライブ。

満月と漁船だけが照らす崖沿いの道、今日もまた格別であった。

posted at 23:08:20


こんな時間にこんなところに人間がいていいのだろうか?と思うような、特別な時間が流れるところ。

車を停めて灯火を消して、まだ冷たい風に頬を晒して、今にも動き出して妖しく踊り出しそうな、木々の黒い影に、囲まれ、向かい合う。

posted at 23:13:37


夜の森はとても怖い。

暗闇に潜む捕食者に怯える小動物の臆病さを、束の間、心に棲みつかせる。

posted at 23:14:09



崖沿いの道を抜けて陸上(くがみ)に出ると、今度は静かな海沿いの小さな夜の町を横切る。

起伏のある町、曲がりくねる道。人間サイズの路地を横目に見ながら、ただ車で走り抜けることの野暮。

posted at 23:21:37


この空間を守り伝えることに何の力も貸していない自分が、ほんとうにこの町の時間に這入ってゆくのは、おこがましいことなのだろう。

そう思えばこの野暮も、仕方が無いというものだ。

posted at 23:22:16


東浜。荒々しいむき出しの岩肌の前を通り過ぎる。
耳に入るのは浜沿いの波の音。
自分の乗る軽自動車の微かなエンジン音が恨めしい。

posted at 23:25:38



一時さびれた国道へ出て、味気ない普通のドライブ。
牧谷の前を走り抜け、浦富の前を通り、ほら、もう、田後の港の小さな入り江の町。

ほとんど泣き出したくなるような、強烈なノスタルジーと愛おしさに、しばらく心を埋没させる。

posted at 23:40:41



小さな入り江の急峻な斜面に、所狭しと人家が並ぶ。
斜面を走る道から、谷の向かいの坂道の路地を見つめる。
この道はあの陰であの家の裏へ。
あの道は坂を駆け上がり崎の上へ。

いつか肉体から自由になったら、
この入り江を飛び回ろう。
叶いもしない誓いを立てる。

posted at 23:42:34



ぐるりと谷を回れば通り過ぎる右手の向かいの崖の半ば、佇む小さな校舎が見える。

背後にそびえる山の上から、浅い霞に淡い光を散らしながら、満月の明かりが降り注いでいる。

posted at 23:45:31


海に面した絶壁の展望台を通り過ぎて、網代へと抜ける道で後続車。

曰く言いがたい時間は、今日のところはこうして幕を閉じたのでした。

またいつか満月の夜、風の呼びかける頃に会いましょう。さようなら。