読書メモ。『震災大不況で日本に何が起こるのか』

 書店で見かけて衝動買い。そのまま飲食店にてほぼ読了。

震災大不況で日本に何が起こるのか

震災大不況で日本に何が起こるのか

 4月30日頃の出版ということで、特に原発問題に関して、少し情報が古い部分があるが、多くの情報を歯切れ良くまとめていて、一気に読ませる。一筋縄ではいかない中国という国を丹念に観察してきた著者ならではの良い意味でのドライさも、センシティブな話題についても直言するのに役立っていそうである。
 ただ、タイトルはちょっとミスリーディングな気がしないでもなく、具体的に日本がどうなるみたいな話より、著者の本文中での表現を借りれば、日本でのマスコミの報道順位である、「ライフライン(全マスコミ)>ビジネスライン(せいぜい日経)>ディフェンスライン(ほぼ皆無)」の逆を行く情報提供・整理を試みた本と言える。
 特に軍事面に関しては、自衛隊の活動についての報道が異常に少ないこと、中露などのどさくさ紛れの挑発的行動が全く報道されないなど、マスコミや政府の無能に対する不満を至るところで述べている。特に印象に残ったのは、航空自衛隊松島基地で、F2戦闘機18機をは締め航空機計28機が水没したことを日本テレビがヘリからの映像を公開し、普通の国ならこの情報を公開しない、と述べている部分(p.64)。「利敵行為である。というよりテレビ報道員には国家安全保障感覚が致命的に欠如しているのだ。」
 第一章、東北各県での電子部品の生産の滞りと世界各地での工場の停止について、関連する各県の代表的企業を逐一名をあげているのには頭が下がる。
 この著者にやはり一番期待するのは中国に関すること。今回の震災への反応としては、一部での火事場泥棒的な領土拡張の主張は殆ど相手にされず圧倒的大部分が日本への同情・協力的声明であったことなどは、事情通の著者にとっても驚きだったそうだ。(ただし国内にいた偽装結婚をはじめとする中国人や空港をゴミの山にしていった連中に関しては批判的に述べている。)
 中国に関して面白かったのは、四川大地震の際の人民解放軍と、今回の東日本大震災における自衛隊や米軍の、その行動指針の違いである。解放軍の場合、その派遣の目的が、第一に欠陥建築物(「豆腐ビル」と呼ぶらしい)への共産党の無責任に対する抗議行動など、民衆の不満の爆発に備えた治安維持、第二に被災地にあった核兵器の研究施設の警備と保護、であったそうな。なんだかまぁ、とてもわかりやすい話。


 財源に関する話での現実的な提案を引用したい。

 第1に日本は対外援助を中断、もしくは縮小できるレジティマシーを得た。国内復興のために海外援助を控えると世界に宣言するべきであろう。
 第2裕福となった中国には、有利子借款を早期に返却するように求めるべきである。チャイナスクールはこの期に及んでも中国への援助を続行すると言っているが、日本よりGDPが多くなった国に、何故援助が必要か?
 第3に国連への分担金は、日本は相対比較でも高額すぎる。国連ほか国際機関への分担金を減額してもらう口実も出来た。
 第4に対外債権を切り売り、転売して資金を確保し、日本へ環流させよ。国内需要は復興のための建設、道路整備ほかに必要となり、同時に戦後最悪の失業率5.1%、334万人の失業者の雇用創出につながるからである。
p.179

こういう議論はマスメディアではまず出てこないであろうから、とても参考になる。