【後位修飾付き名詞句の<定性>と<数>】 について、パラメーターを設定、表にしてパラダイム展開して考へてみた。

Def&Number Check Table

表の解説


<横軸の要素>

  • [+def] をもたらす要因を、{definiteness} にまとめる。
    • …唯一物、…修飾語と被修飾語の関係から唯一的に同定が可能、…聞き手に取って既知である
  • 数に関する要素を {number} にまとめる。
    • …全体の部分である、…対象の名詞の数が複数である。

<決定要因を示す括弧>

  • {definiteness} は、定性の決定力の強い(他の項目に依存しにくい)要素の順に、左から並べる。
  • 各名詞句の{definiteness}の第一の決定要因と思われるものを、 <+> <-> で示す。
  • 上位(左側)の要因により、自動的に決定される下位の要因を[+][-]と表す。

<候補文の留保事項>

  • 同じ條件で可能な別の表現は // で区切る
  • 疑問のある表現は単語の右上のアステリスクで示す
  • 不可の表現を対比のために敢えて提示する要素は単語の左上のアステリスクで示す

ここでは、5つの名詞句を例にとった。
(1) earth
(2) town where I was born
(3) player who played the trio then
(4) summit of a/the mountain
(5) bike in the yard
これら5つの句について、冠詞 a/the の選択の条件を逐一検討した。


(1) の場合 ; earth

  • 「地球」といふ意味での earth の場合、唯一のものなのでそれだけで[+def] が可能。この場合、[+def] の決定要因は

the earth

(2) の場合 ; town where I was born

  • 「特定の人が生まれるところ」はその人につき一カ所しかあり得ないので、修飾語と被修飾語の関係から唯一的に同定可能。よって決定要因は

the town where I was born  
(N

ここで無理に a をつけて [+def]を否定すると、「別の可能性があること」(一つかも知れないし、二つ以上かも知れない)といふ解釈が可能になり、上記の決定要因と矛盾してしまふ。
この場合、これを不可とするのが普通である。

  • *a town where I was born


(3) の場合 ; player who played the trio then

  • これも「特定の機会に特定の弦楽三重奏演奏するのは3人だけ」という條件から、唯一的に同定が可能。よって決定要因は

the players who played the trio then
(N

  • ただし (2) の場合と違ふのは、限定される唯一の可能性は「人数が3人」といふ点で、同定可能だからと言っても、数は1ではない。

ここで、いくつかあるうちの全部、といふ意味で不定の複数形を用ゐて、three players としてしまふと、唯一的に同定された「三人」といふ以外に、「他の可能性がある」ことが示唆されて、上記の決定要因と矛盾する。
この違和感は、上記 (2) に対する違反である「生まれた場所が1つ以上かも知れない」よりも強烈である。
(2)の違反は、「輪廻転生などの空想的な條件」を設定すれば、辛うじてフィクションとして回収が可能であるが、(3)の違反はさうした空想でも回収のできない、複雑な論理的な混乱を頭の中にもたらす。

  • 全体の部分であって、聞き手にとって未知の場合には、one of the player ~ といふ形で、<冠詞+名詞句>とは別の構成を用ゐなければならない。文法的にも意味論的にもおかしな所のない文だが、目下考察中の論点を逸脱してしまふ。
  • 聞き手にとって既知の場合は、そもそも後位の修飾語句を伴ふ必要が無く、代名詞で済んでしまふ場合も考えられ、これも目下考察中の論点を逸脱してしまふ。

(4) の場合 ; summit of a/the mountain

  • これも上記と同様、「ある山には頂上は一つだけ」といふ関係から、たとへ山が聞き手にとって未知でも、「そのとある山の頂上」であるということで唯一的に限定され、定性が付与される。

the summit of a/the mountain
(N

  • 上記 (2), (3) と異なる点は、「どこの頂上かまでは特定しない」といふ不定の情報を含意したければ、山の方の定性の表示に従ふことになる、といふ点。

を伴ふパターンは、summit の定性に揺れはないので、考察は省く。



さて。問題の…
(5) の場合 ; bike in the yard

これまでの場合と違い、聞き手の既知・未知に関はらず定性を決定するような強い要素がないので、この場合特に焦点になるのは、「聞き手の既知・未知」である。

おそらく誰にも異論がないものが、

③-a) a bike in the yard
(=It is one of several bikes in the yard.)

④ some bikes in the yard
(=They are some of several bikes in the yard.)

の二つ。この場合、聞き手にとって未知で、それら以外の対象の存在の可能性を排除しないこれらの表現は、文法的にも意味論的にも何も問題は生じない。



ややこしい所に入る前に、まず聞き手にとって「既知」である場合をさっと確認する。(⑤〜⑧)

  • この場合、話し手は既にどれのことであるのかを知ってゐるのであるから、そもそも修飾語句が要らないか、代名詞で済ませてしまへる場合が可能性である。
  • it
  • the bike
  • この条件下で the bike in the yard と後位修飾を伴はせるのは、既出の情報を繰り返しているため冗長である。可能であるとすれば、例へば「庭の外のやつじゃなくて、庭にあったやつの方ね」といふ、別の文脈に置ける確認の意味がある場合。

the bike in the yard
(=not the one outside the yard)

で、問題の所。(①)
條件を列記すると、

  • 唯一物でなく、
  • 修飾語と被修飾語の関係から唯一的に同定は出来ず、
  • 聞き手に取っても未知である。

この時点で、定性は基本的に [-def] になる。決定要因は、


ここで、先の記事で引用したルール http://d.hatena.ne.jp/altocicada/20130915/1379178470 に従へば、

  • a bike in the yard は、話し手にとって特定の1つであるには違ひないが、聞き手に取って未知であるため、可能である。ここでの不定冠詞 a の含意は、'one of several bikes there' ではなく、'the listener doesn't know the bike' である。
  • また、the bike in the yard は、この がマイナスであるといふ條件と食ひ違うため、不可とされる筈である。


しかし、the bike in the yard が絶対的に不可能な、奇妙な表現かといふと、さうは言い切れない感じが残る。
問題は、その場合の [+def] が、一体どこに由来するのか、といふこと。これが可能と感じられる根拠を、いくつか考へてみる。

  • 聞き手に取って未知であるに関はらず、theをつけることで、「そこにあったのは一台だけだった」という情報を強調的に伝へる機能を、the には期待できないか。
  • 聞き手がどう捉へるのか、そもそも話し手に関心がない。言ってしまへば、話の要点ではないので、さっさと次の話題に勧めてしまひたいといふ時に、そのやうにして「終わったことにする」といふ機能。
    • この点は、a ならばその後にそれの話を続けさうなニュアンスがあるのと、良い対比をなす。
  • yard と bike の台数に必然的な関係性はないが、yard は大抵一望出来る範囲であるので、一台だけなのかどうかに余り迷いはなく、聞き手もそのことを了承しやすい関係になる。よって、弱い形での を想定出来る。

この点、様々な例文で検討が必要さうだが、それは今後の課題として、もう一つの重要な論点を最後に指摘だけ。



以上「全体の中の部分か否か」といふパラメーターを設定して、それも含めてパラダイム展開を行って検討したが、この「全体の中の部分か否か」といふ要素、実際には、

  • 「それで全部である」
  • 「全体の中の一部である」

の他に、

  • 「それで全部なのか、全体の中の一部なのか、話し手にもわからない」

といふ場合も、考慮に入れなければならない。

これがまたややこしいのだが、とても大事な点でもある。

  • この場合、the を伴へば、それがただ1つの可能性であることが強調されてしまふので、おそらく「解らない」といふ状況には相応しくない。

この場合、the を用ゐるのは適当か?


このことを考へた場合、「その場にいくつあったか」という「客観的事実」は、「話し手と聞き手の共通了解」としての「定性」には、さほど関与しないのではないか、と思はれてならない。

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息切れしたのでこれくらゐで。
締めに、今朝のツイートのまとめと、文献引用を。

9月15日
英語の冠詞の説明で難しいのは、the は [+def] という意味特徴だけ考えていればいいのに対して、a(n) の方は、 [+countable, -def, -plural]という三つの意味特徴を考慮しなければならない、というのが、まず一つ。
the は、名詞の加算不可算を問わないし、単数複数も問わない。名詞句が<定性>を伴うかどうか、だけが使用の基準である。 対して a(n) は、「定性の有無」の他に、名詞句が「可算」でしかも「単数」の場合にしか使えない。
要は、二つの冠詞は綺麗な対立をなしていないのだ。


特に面倒なのが [+countable] の部分で、名詞を可算名詞として用いる場合、数に関して無標 unmarked の形態は、car ではなく、不定冠詞付きの a car である、ということ。
つまり、可算名詞の単数形は car では無くて、冠詞を添えた a car としなければならない。 無冠詞にすると不可算名詞となるので、そもそも単複の対立という前提がなくなる。


[+countable] の場合、問題にしている名詞句に、積極的なたとえば [+OneOfSeveral] といった意味特徴があっても無くても、[-def, -plural] であれば、 a car と、「必ず」aを添えなければならない。
言い換えれば、a の有無によって、それ以外の [+OneOfSeveral] などの含みは、はっきりと判定出来ない、ということになる。

こういう場合、特に積極的な「ひとつ」含みを持たせない a は、可算名詞であること、「個体性」を示す、唯の標識に過ぎない。


安藤貞雄『現代英文法講義』第22章 22.2 不定冠詞

 英語の不定冠詞 a / an は、古期英語の数詞 ān [ɑ:n] 'one' の弱まり形 an [ ɑn ]に由来するので、常に「一つの」という意味をとどめている。不定冠詞が単数可算名詞にしか付かないという事実は、これによって自動的に説明される。

〔発音解説 省略〕


 次に、不定冠詞の意味・用法を考察する。
 従来、不定冠詞の意味として、以下に掲げるようなものかあった。しかし、それらの意味に通底しているのは、(1) のような不定冠詞の中核的な意味である。

(1) 不定冠詞の中核的意味は、<個体性> [+individual] と仮定される。