-ism

『和声の歴史』、読み進めていくと、再び意味不明な「主義」が出てきて、「旋法主義」がそれである。
これはたぶん、と思って、modalism で電子辞書を引くと、やはり、Oxford Dictionary of English に、

  • 2.《Music》 the use of modal melodies and harmonies.

とあり、やはり「旋法使用」程度の訳で問題ない。仏語原書のものを英語の辞典で引いても・・・・・・・という懸念がないでもないが、このへんの言い回しは通ヨーロッパ的だから、たぶん問題ないはずである。
ちなみに同辞書(ODE)では、chromaticism は派生語形で示してあるだけで、見出しは立てられていない。chromatic は、第一義が、

  • 《Music》relating to or using notes not belonging to the diatonic scales of the key in which the passage is written.

とある。
また、Oxford Concise Dictionary of Music では、chromaticism には ODE の modalism と全く同様の記述、逆に modalism には見出しすら立っていない。このように、一般辞書と専門辞書で見出しの立て方が違っていたりするのをみると、要するに -ism という接辞は、特別に専門用語的な感覚を想起することもない、極く普通の言葉の使い方であるという感じが見て取れる。(専門語的なニュアンス、衒いの様なものがあるとすればむしろ、chromatic とか modal とかいった語幹の部分に感じられるのだろう。)

この『和声の歴史』、全体的には、この種の書物に適した無駄のない硬質な文体を保ちつつ、可能な限り読みやすくする工夫がなされている印象があり、訳者の感覚の鋭さが感じられるので、尚更この -ism の訳癖が気になって仕方がない。もしかして、出版社側で、慣用的な訳語からはずれないようにとの編集方針を立てたのかも知れない。
「訳癖」というのは今わしが発明した言葉。