読書メモ『人間の建設』
- 作者: 小林秀雄,岡潔
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/02/26
- メディア: 文庫
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ただの知的な世界だけで完結していても、数学にならない、というのが、本書を通底しているテーマだと思うが、まあそこかしこで話題になってそうだし、それは飛ばして、その他気になった点をメモ。
- p.58…物理で言えば、物理学的公理が哲学的公理に変わったことにも気づかない。〈岡〉
- p.69…問題をうまく出せば即ちそれが答えだと。(…)たとえば、命という大問題を上手に解こうとしてはならない。命の方から答えてくれるように、命に上手く質問せよという意味なのです。〈小林〉(…)答えがどうであるかを直観するところまで設問がうまくできていたら、できると思います。〈岡〉
- p.90…例えば彫刻家が首のないトルソを作るでしょう。首を後から突けようと思っても、付かないのですね。〈小林〉
- p.111…どうも、確信のないことを書くということは数学者にはできないだろうと思いますね。確信しない間は複雑で書けない。〈岡〉
- p.122…着想というものはやはり言葉ですか。〈小林〉ええ。方程式が最初に浮かぶことは決してありません。方程式を立てておくと、頭がそのように動いて言葉が出てくるのでは決してありません。ところどころ文字を使うように方程式を使うだけです。〈岡〉
最近考えていたことに関してホットだった話題は、p.103あたりからの「1」に関する話題。
- 1を仮定して、1というものは定義しない。1は何であるかという問題は扱わない。〈岡〉
このあたりのややこしさというのは、中1の数学を教えるときなんかに、よく感じる。負の数の概念は、そういうものとして、定義をきちんとしないまま、計算上の方法だけを教えて、演習をさせれば、ちゃんと出来るようになるが、直感的に分からないと納得できないタイプの子には、どのようにすれば分かってもらえるかというのは、一つのチャレンジである。
で、「自然数は分かるけど、負の数は分からない」と、確信をもって言ってくる生徒なんてのはさすがにいないが、そういう場合には、次のような切り口を準備している。
「確かに、負の数なんてのは、実際にはないといえるね。では、実際ということを言うならば、正の数、というのは、実際に、あるんでしょうか。」
その後、リンゴの絵を二つ描いて消したり増やしたり、これは実際はリンゴではなくて紙と鉛筆の芯だよ、とか言ったりして、何とかして、「1」というのが概念でしかないことに気づいてもらう。その後は、では数の正負というのは何なの、それは要するに基準点との関わりをこの「1」という概念を応用して考えていくことなんだ、みたいな感じで進める。
て感じ……を思い浮かべてるが、まぁ実際に使う機会もあるまい。こんなことをあれこれ考え出す前に、技術の適用の快感に気づいて、教科内容が進んで行きさえすれば、こちらの仕事は完了してしまうしな。
その他、「1」ということに関しては、生後一八ヶ月齢ぐらいから、この概念が現れはじめる、という点が気にかかったが、この月齢はトマセロでもちょくちょく出てくるので、今後気にしながら読もう。
また、その場合獲得される「1」の概念というのは、例えば、
- 私がいま立ち上がりますね。そうすると全身四百幾らの筋肉がとっさに統一的に働くのです。そういうのが1というものです。一つのまとまった全体というような意味になりますね。(…)1の中に全体があると見ています。あとは言えないのです。個人の個というものも、そういう意味のものでしょう。個人、個性というその個には、そういう意味のものでしょう。個人、個性というその個には一つのまとまった全体の1という意味が確かにありますね。
前半部は、様々な運動論について、示唆に富む。後半部、「個人」という飜訳概念の原語 individual は in-divis-ible つまり、それ以上分割できない、と言う含意。
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(5/21)
この本の感想書いたブログをいろいろ読んでると、「情緒」とか「感情」を、結局一般的な意味で解してしまっている人が、結構いて、アレレ、と思う。そうじゃないって、わざわざ本人たち言ってるじゃないか…(42ページ)。
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