【読書メモ】山口真美『発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ』 (引用)(読了)

5月15日
"他者について理解を深めようとするとき、顔を見る行為はもっとも大切なこととなる。顔を見ることは、自閉症の人たちの苦手なことのひとつとされているが、実際に健常者と比べると、そもそも全体のバラつきが大きいことがわかってきた。
「顔を見る」という行動は、世界を見る能力の中でも特に発達した、複雑な能力である。複雑な発達を経るがために、その能力のバラつきが大きく、また複数の下位能力に分かれて独特な認知を形成するのである。"
p.8

5月16日
”3歳で自閉症と診断された場合、いつごろからその予兆が見られたかを調べたところ、回想研究では発達所記から徴候が見られると言われていたのであった。だが、実際はちがっていた。12ヶ月よりも以前には、親は決定的な兆候を見出すことはできなかったのである。”
”診断にかかわるような社会行動上の差異も、6ヶ月時点までは見当たらなかったのが、自閉症と診断された幼児の大半は、6ヶ月を過ぎたあたりからだんだんと社会的スキルを失っていくことがわかった。”
p.40


5月17日
第2章 扁桃体の話がやっぱりよく出てくる。
”見知らぬ人に対して不安を感じるとき、脳の中の扁桃体が反応する。しかしこの反応は、4歳から17歳にかけて徐々に低下する。怖い顔を見た時の恐怖反応も、子供時代から青年後期にかけて上昇するものの、大人になるに従って低下する。”
” つまり、自身の身を守るため、幼い子どもは、より強い恐怖反応を示すようになるのだ。知らない大人に恐怖を感じずに近づいていったりすれば、連れ去られる危険に陥りやすくなる。そんな防衛策が、進化的に恐怖を感じる脳に組み込まれているのだ。”
”そして不安に対する反応とは異なり、子どもの時代から青年期にかけて、人々の感情に過敏になり、周囲の言動にピリピリする反抗期へと進んでいく。”
p.50
”(…)こうした大きな心理的恐怖は、不可逆的な衝撃を脳に与える。恐怖の体験は、扁桃体の大きさを変えてしまう。例えば戦争や災害で心に負った深い傷、それは実際に脳の深い傷となる。”
”(…)大きな恐怖の体験を受け続けると、扁桃体が過剰に反応し、それによって扁桃体そのものや、記憶を司る海馬にも影響を及ぼし、その容量が減少することにもつながる。”

(…)子供時代に性的虐待を受けた大学生の脳を調べたところ、視覚野の容積が減少しており、しかも思春期以前の11歳までに虐待を受けた患者で著しく、虐待を受けた期間が長いほど、容積は小さくなっていたという。”
p.52


5月18日
”広い黒板の隅々まで文字を書くことは、禁物だ。彼らが注意できる狭い「窓」の範囲内に書いてあげるだけで、集中は途切れなくなる。”
p.78

"例えばカクテルパーティー効果というものがある。
(…)見るときや聞くときに、トップダウンによるフィルター越しに、意識に入るべき情報と不要な情報をより分けている。このフィルターで使われるのが、蓄積された知識や記憶である。"
”それぞれがもつ知識に基づいたトップダウンの処理で、意識に入るべきものとそうでないものを分類する。目の前の集中すべきところだけを見、注意したところだけをを感じる。目の前の事象に対処するテクニックとも言える。”
”それが同じ知識や文化を共有した「共通認識」のもとに行われるので、同じ土壌をもつ人たちの間では理解し合えるという利点ともなる。
 この共通認識が、発達障害者にとっては曲者だ。”
”そもそものところ世の中のあらゆる判断基準は、文化や社会に根ざした先入観に基づく相対的な判断が大半を占めていて、正しいかどうかではなく、多数派かどうかが問題となる。”
”(…)こうした集団的な潜在的判断は、テクニックをもつ人からすると正しい判断であるが、あくまでも多数派の判断であることを再度認識しておく必要があるということだ。なぜなら、テクニックを持たない人からすれば、正しい判断とは認識できないからだ。”
”こうした集団に基づく潜在的判断システムをもたないと、社会生活を送る上で多大な苦労があることは、想像に難くない。”
pp.80-81


5月19日
"中には蛍光灯の点滅が、ディスコのミラーボールの点滅のように感じると話す者もいる。これはディスレクシアの一部であるアーレンシンドロームと呼ばれる症状の可能性が高いかもしれない。"
"(…)止まっている文字が、なぜ彼らには動いて見えるのだろう。それを知るためには、色を処理する脳内メカニズムの理解が(…)この神経信号は視神経を通って外側膝状体で、色と形、そして動きの2つの情報に分けられて視覚野に送られる。色と形は外側膝状体の小細胞で、動きは大細胞で処理される"
"アーレンシンドロームの問題は、錘体細胞の色を吸収する仕組みと、外側膝状体の色を伝達する仕組みの混乱にあると考えられる。すなわち、小細胞に伝達されるはずの色が、動きの信号に混同されて伝わってしまうのだ。"
pp.64-66