【a/the bike in the yard】

西友七編『現代英語語法辞典』(三省堂)の the の項を以下に引用してみます。

the は定冠詞と呼ばれていることからも分かるように、「the + 名詞」を用いるときは、話し手は通例、特定の人や物の存在を前提としている。この場合、特定的とは、話し手にとってだけでなく聞き手にとっても特定的であることを意味する。

聞き手がどの名詞を指しているか識別出来るのは以下のような場合で、このようなときに the が典型的に用いられる。

(c) 後位修飾を伴い、それが識別に必要な情報を与えている場合。

(c) 後位修飾を伴う場合: 前置詞句(特に of 句)や関係詞節が後から前の名詞を修飾し、名詞の限定性を強めている場合は the を伴うことが多い[〜]〜


このあと、後位修飾の先行詞に a/an がある場合、「複数の中のひとつ」という含意が生じる旨の解説があります。それに基づいて、

  • This is the [*a] house I was born in.

では、a の使用は不可、としてゐます。
この辺りが博多弁さんの指摘されるところです。


この後、それに対する反例についての解説が続きます。

しかし、ある名詞が談話の中で初めて言及される場合は、その名詞が1つしかない[1人しかいない]という特定性を表していても、関係詞の先行詞に a/an がつけられる:

  • A guy that Harry didn't know was sitting there.

と、用例を引用してゐます。


ただししまた、

  • He climbed the [*a ] summit of the/a mountain.
  • He put the [*a ] butt of the cigarette in the ashtray.

などでは、a の使用は不可、としています。


綜合すると、

  • ①後位修飾の先行詞の冠詞に関する一般的規則、

がまづあり、

  • ②聞き手と話し手の間で共通了解が出来てゐるかどうか、

に関する留保項目があり、さらに

  • ③共通了解をまつまでもなく、常識的に1つしか考へられない物事かどうか、

といふ3つの條件が、後位修飾を伴ふ場合の the と a(n) の遣ひ分けに関はってゐる、と言へさうです。(ただし、②と③の優先順位については、ここでははっきり述べられてゐません)


【a/the bike in the yard】について。

③について詳しく見てみると、例へば

  • This is the house I was born in.
  • He climbed the summit of the/a mountain.

などの場合については、「修飾語と被修飾語の関はり」を考へてみると、

「被修飾語が、修飾語で指定される物事の、必然的な一部をなしてゐる」

といふことが言へます。


つまり、
「生まれる」といふ事態については、

  • A person is born only in one place. 

「山」と「頂上」については、

  • A mountain has its only summit.

と、一般的な命題として言ふことが出来ます。

この「修飾語と被修飾語の関はりの必然性」の違ひが、the が義務的であるか否か、を決定するのではないか?と、考へるわけです。


ここで a bike in the yard に戻りますと、「庭」と「自転車」の関係の場合、その繋がりは偶然的で、

  • ? A yard has its bike(s) in it.

といふ具合に、一般的な命題として言ふことは出来ません。

この場合、上記の③の條件は関はらないので、②の條件によって、a か the の使用が決定されるのではないか、と考へてゐるところです。